今年の1月1日に初版発行になった本です。
副題は ~培養上清とは何か~。
著者は名古屋大学医学部名誉教授の方。
NHKで札幌医科大学でやっている脊髄損傷患者への幹細胞投与(本人の幹細胞を培養して大量に増やして再注入する)によって、身体麻痺した患者さんが従来のリハビリ経験とは全く異なる好成績での回復をしたという番組を見ました。
しかも、この治療が来月から健康保険適用になるとの事で、再生医療がついに身近になって来たという事と、その劇的な効果の可能性に驚きました。
そこで、再生医療の前線を知りたくてこの本を読んでみました。
すると、日本ではIPS細胞を用いた研究には大きな金が出ている事。札幌医大がやっているような幹細胞を用いた再生医療の試み、それに加えて培養上清液という物を用いる試みがある事が分かりました。
上田先生は、培養上清液を用いれば、安全かつ低コストにて実効的な再生が出来るという事を発見したとの事。
IPS細胞や幹細胞での研究は、それらの細胞を(分化)増殖して、それを身体に入れることでそれらの細胞が修復作業をしてくれるハズという考え方。
対して培養上清は、幹細胞培養時にできる培養液の上澄みで、細胞から放出される生理活性物質が沢山入った液体(細胞は入っていない)との事。
それを患者さんに投与すると、患者さんが最初から体内に持っている自分の幹細胞を元気にし、その自分の幹細胞の働きで再生組織が作られているという働きを起こす。
しかも、他の人の物で作られた培養上清でも拒絶反応が出にくいし、大量作成や錠剤化も可能との事。
色々な障害に効果を発揮。
アルツハイマー病の人に投与してみたら、かなり劇的に認知症状も軽減されたらしい。
米軍も再生医療を開発中で、妖精の粉と呼ばれているとの事。
テレビで妖精の粉を使った再生医療の中で、切断された指を元通りに再生する治療が紹介されました。設題した指の断面に妖精の粉を乗せて、包帯で包んでおきます。何かすると、切断してなくなってしまった指が伸びてきます。しかも、爪まで再生されているのです。これには、さすがの私(上田先生)もびっくりしました。
この妖精の粉は作成方法は異なりますが、培養上清と同じ生理活性物質を含んでいると推察できます。どちらも細胞が含まれていないということが共通点です。
IPS方式が持つ課題(癌化の可能性等)や、札幌医大などの幹細胞増殖方式の欠点(時間や費用が膨大)がクリアされ、非常に現実的かつ有効な手法の様です。
実用化されれば、スゴイ可能性がありそうです。
但し、色々な成分が入っている培養上清が、どういう化学メカニズムで効くのかという詳細メカニズムが解明できていないので、日本の行政では薬事化が難しく、製薬会社も乗って来づらいとの事。動物実験は沢山行われているが、人間での治験は日本の仕組みではハードルが高いとの事。
そこで、ノルウェーの有力大学と名古屋大学での国際連携プロジェクトという枠組みを作り2019年から進めようとしている。
上手くいけば、日本の発明なのにノルウェーの大学から特許申請し、EUの製薬会社が作る事になりそう。
上田先生は、実用化されて再生医療が”身近に使える医療”になる事は喜ばしいが、日本でそれが出来ない事に本当にガッカリされているという気持ちが伝わってきます。
尚、先生の論文を見て、アジアの会社が培養上清液もどきを作って、日本のクリニックなどが輸入して商売しているという現実もあるらしい。(美容とかそういう方面でしょうか) ネットを検索すると、確かにいくつかヒットします。
再生医療、しかも 患者自身の自然再生力を用いた再生医療が低コストで出来れば非常に良い方法だと私も思いました。
しっかりした方法で、素早く 検証と実用化を進め、一方でまがい物は規制するという仕組みを日本国行政が進めて欲しいですね。