2022年8月15日月曜日

【本】日本会議の正体 青木理 平凡社新書

 自民党政権を裏で牛耳っているのではと感じていた「日本会議」とは何者なのかを知りたいと思い読みました。


やはり、戦前の天皇中心の社会に戻すべしという旗印でうごめいている偏った思想と思える人たちの集団の様子。

それらの内訳は、明治天皇を祭っている明治神宮をスポンサーとして日本中の神社を束ねている神社本庁や新興宗教と、

生長の家の創始者である谷口雅春氏の教えを信奉する人達とのこと。(キーマンは椛島有三という人か)


当時の生長の家は、信者2世の若者を教育する機関でもあったとのこと。


彼らの思想のルーツや、その運動形態の変遷を政治家を含む多様な人へのインタビューを元に描きだしてくれています。

本書は、インタビュー部分では話者の発言を出来るだけ忠実に記し、著者(青木氏)の意見は別に分けて書かれている

とのことで、色眼鏡の無い実態の雰囲気を感じられる様に思います。


彼らは、国民主権や民主主義は日本には合わない。日本は尊王皇国の戦前のやり方が良いという考えの様子。

また、神社本庁が大きく入って言える事もあり、政教分離は廃止すべしという考え。(これも戦前と同じ)


明確には書かれえていないけれど、きっとこれらの状態に退歩させると、彼らにとって非常に大きなメリットが

あるのではないかなと思いました。


日本会議の活動手法の部分を書き写すと、何かテーマを決めると 中央で「xx国民運動」という組織を立ち上げ、神社本庁などの協力

を得て(人集めなどもできるので)波状的に集会を開き、これと同時並行する形で全国に”キャラバン隊”を派遣、地方議会での決議や

大規模な署名集めなどを行いつつ、意を通じた国会議員らが議員連盟を発足させて政府や野党を突き上げていく、、。ということ。


暗闇で操る陰謀論というよりも、民主主義的なしくみを逆手に使って草の根的な(一部の)実績を持って、これが国民の気持ちだと突

き上げていくという事らしい。



こういう国粋主義の思想に共感する議員たちが(たとえ全面共感では無いにしても)多い事。

さらに、それらを、間違っているだろうと規制する動きがなくなっている組織や社会の現状に対してマズイと感じます。



安倍政権下で起こった各種の、憲法や民主主義を踏みにじる変化、活動の意味や訳、しくみがこの本で少し理解できた気がします。


憲法改正が必要と声高に言っている第1目標が、実は9条云々以前に20条(政教分離)というのが実態なのかもしれません。


憲法改変投票が起こる前に、沢山の人に読んでもらいたい本だと思いました。


一方で、これだけ信者を集めたという谷口雅春氏とはどいう人だったのか、もう少し知ってみたいとも思いました。

2022年8月11日木曜日

【本】実況 料理生物学 小倉明彦 文春文庫

 大阪大学の教授が、新1年生を対象に開く料理生物学講座の講義録。

毎回、何か作り・食べながらそれに関連する生物、化学などの現象を教える。


大学の講座と言っても、さすが大阪で、漫才を見ているような面白い本でした。


食や生物、化学にまつわるバラエティに富んだ話が展開して、科学エンターテインメントという感じ。


そうだったんだ!! と思うような事も満載です。


いくつか面白いと思った部分をつまみ食いすると、


・カレー

18世紀英国はインド植民地経営をしていた。その時、初代インド総督に選ばれた男が香辛料ミックスを王様への土産として持って行った。これが王妃に気に入られ、王室御用達としてカリー・パウダーという名で売り出された。

明治に日本は陸軍はフランス式、海軍は英国式を取り入れた。そこから、海軍では毎週金曜日夕食はカレーになった。


海軍基地周辺からカレーは庶民にも広がり始め、国内の漢方薬屋が調合国産化に取り組む。

東京の日賀志屋(現S&B食品)と大阪の浦上商店(現ハウス食品)が成功。


1492年コロンブスはコショーを求めてインドに出発した。ただし、逆回りを狙ったのでアメリカにたどり着いた。

しかたがないので、唐辛子を赤コショーだといってスペイン女王に持って帰った。だからコショーは英語でレッドペッパーと言う。

また、コロンブスはトマト、ジャガイモ、タバコなども持ち帰った。それによりドイツ人はジャガイモ食べられるようになり、イタリア人はトマトソースのパスタを食べられるようになった。

唐辛子は日本には宣教師が持ち込んだらしい、その後秀吉の朝鮮出兵で朝鮮半島や中国に伝わったのではないか。キムチが辛くなった。



ご飯。

デンプンはブドウ糖が長くつながったもの。ブドウ糖は体内で分解されてエネルギーになる。

ブドウ糖を分解する酵素一つにピルビン酸デヒドロゲナーゼがある。これはビタミンB1がないと働かない。

エネルギーを最も使うのは神経。 神経が働かなくなるのが脚気。診断で膝下をたたくのは、反射の神経が働いているかを見るため。


・ラーメン


小麦粉。強力粉と薄力粉の違いは小麦の種類の違い。タンパク質(グルテン)の割合。強力粉は12~15%,薄力粉は8%ぐらい。


うどん:小麦粉と半量の10%塩水を合わせてこね+踏み、その後1時間寝かせる。

スパゲティ:小麦粉に卵、オリーブ油、塩を入れてこねる。1時間寝かせる。

ラーメン:小麦粉に灌水(強いアルカリ溶液)、塩を入れこね踏み、1時間寝かせる。


うどんは、塩水を入れる事でタンパク質(アミノ酸の連鎖)の結合がふにゃふにゃになってしまう。

さらに、こねる事で生地に酸素が入り、寝かせている間に小麦粉中のたんぱく質(アミノ酸)と反応してタンパク質の架橋を進める。

その時に反応で水も生まれる。(だから粉から水が出てくるという事になる)


ラーメンでは灌水のアルカリ性で塩水と同様にタンパク質をふにゃふにゃにしてしまう。

パーマもアルカリで髪の毛のたんぱく質(ケラチン)をふにゃふにゃにして、好きな髪形にできるようにする。


スパゲッティは、卵のたんぱく質で強制的に麺を成形してしまう。



・ホットドッグ

ソーセージ:フランクフルト(豚の腸)、ウインナー(羊の腸 細い)、ボロニア(牛の腸 太い) 工場生産はコラーゲン製の人工。


燻製:保存のための殺菌。不完全燃焼した煙にはホルムアルデヒドなどが入っている。これらの毒で殺菌する。



・お茶

紅茶はガンガンに沸かした熱湯で出す。:抗酸化作用のあるタンニンを抽出するためと硬水対策。苦いけど。

緑茶は低温で出す。:旨味アミノ酸のテニアンを抽出するため。日本は軟水だし。

コ―ヒーは古くからアラビアで飲まれていた。英国も紅茶の前はコ―ヒ―を飲んでいた。


ダーウィンの母はウエッジウッドの娘。妻は孫。ウエッジウッド家がスポンサーだった。


カフェインは覚せい剤と同様にドーパミンの作用を強めるので中毒になる。チョコにも同類の物質が入っている。


覚醒剤は太平洋戦争中にパイロット等の覚醒のために大量に作った(ヒロポン:メタンフェタミン)。

終戦で大量ストックしていたヒロポンは闇に流れた。ヤクザの抗争は軍基地の傍が多かった。


・ビール

発芽させた大麦(麦芽)を粉砕して水、酵母を入れるとアルコール発酵する。(小麦や米でも同様)

そうすると炭酸ガスが出る。ビール会社は炭酸ガスを砂糖水に通して、キリンレモン、三ツ矢サイダー、リボンシトロンなどとして売っている。


パンを作るのも、小麦や大麦の粉に水、砂糖、酵母(イースト)を入れて発酵させる。

砂糖は酵母の餌としていれている。パンの気泡は炭酸ガスによる。アルコールは焼く時に蒸発して逃げる。焼きたてパンのいい香りはほとんどアルコール。


・お酒に強い人、弱い人


アセトアルデヒドは肝臓のアセトアルデヒド脱水素酵素(ALDH)で酢酸へ変えられる。ただし、この酵素には活性のあるものと無いものの2種類がある。

両親とも活性ありだと子どもも活性あり。片親だけ活性ありだと分解活性は半分に、両親とも活性無しだと子どもも無しになる。

日本人の約40%は無しか半分。無しの人は、すぐ真っ赤になって眠くなるか気分が悪くなる。半分の人は、飲み始めてしばらくまでは代謝できるので、

つい飲んでしまう。しかし、二日酔いになりやすく、かつ肝硬変になりやすい。



等々。


デザートにまつわる話や、焼き肉についてなど、、まだまだ話題たくさんです。


息抜きと教養のためにお薦めの一冊です。




2022年8月1日月曜日

【本】つむじまがりの神経科学講義 小倉明彦 晶文社

 この本を読むきっかけとなったのは、同志社大学の「ようこそ心理学部へ」を読んだから。


「ようこそ心理学部へ」という本も、大学が心理学部の学生に行う何種類かの講義を本の

上で再現したもので面白かった。


その中で、脳内の信号伝達でシナプスやニューロンという説明がありました。

今までも色々な本で同様の説明があり、伝達物質を使って信号を伝えているということは

分かっている気がしていました。


でも、ふと、この信号はどういう変調方式なのだろうか?と疑問が起こりました。

強度なのか、周波数なのか、はたまたシナプスが動くのか、成分かも、、、と色々な

可能性が考えられますが、ネットなどちょっと調べたただけは答えにたどり着けません

でした。


そこで、ちょっと専門的な本を読んでみようと思い、この本を手に取りました。



読んでみたら、とても面白いし、具体的な最前線も知ることができる科学エンター

テインメント本でした。


なんというか、大阪人の良いノリで書かれているなあと思いました。

教授と学生の闘いなど、爆笑しました。



まじめな先端研究の結果も紹介されていて、そうか!と思ったのは

記憶を定着させる方法。


動物の脳切片を使った実験結果ですが、短期記憶を長期記憶に変えるには、


前回から3時間以上24時間以内の間隔をあけて3回繰り返すことで、

シナプス結合が増えて定着する事が発見できた。とのこと。

RISE(Repetitive LPT-Induced Synaptic Enhancement)と名付けられた

現象です。


実験で、目に見える物理現象として分かった事なので、全国の学生は知っておくと

良いと思います。



もう一つ面白いのは、透明化技術。

最近、脳(に限らず臓器を)透明にする技術が注目を集めている。

組織・細胞の内外を屈折率が同じ物質に置き換えて、反射を起こす細胞膜は溶かして

しまう。


とはいえ、とても実現できないだろうと最近まで思われていた。ところが、本気でやって

みたら、案外簡単にできてしまった。今は脳や臓器といわず、動物を丸ごと(ほぼ)透明

にすることもできる。


ただし、生きた状態では無理です。



あとがきもショッキングでした。著者は10代の頃はカメラの様な映像記憶ができたとのこと。


教科書を開いてしばらくじっと見ていると、そのページが頭の中に映像として保存される。

試験の時は、頭の中でそのページを思い出し、そこに書いてある事を写せばよかった。

しかし、この記憶は思考問題になるとむしろ不利で、理解して覚えたわけではありません

から、試験中にもう一度教科書を読み直して考えるわけで、時間もかかりますし、ときには

試験の最中に初めて「へー、そうだったのか!」と知って感心する事もあったとのこと。


だんだん、物事(や彼女の事)を考えるようになるにつれ、その能力は失われたとのこと。


でも、実は同程度の映像記憶の持ち主は、世の中に結構たくさんいるとのことで、実は私も

そうでしたという人に何人も出会っているそう。



そうでした、この本を読むきっかけとなった信号の変調方式はFM変調とのこと。

ぱーと放出したり、ぱ、ぱ、ぱ、と放出したりする。(伝達物質はすぐに失効する)


なんで 神経伝達物質など使っているのかというと、単細胞生物の時の方法がそのまま踏襲

されているからなのでは、とのこと。

信号は多対多で行われるし、色々な物質使われている。

ポスト細胞(信号を受ける側)は色々な物質へのセンサーを持っているとのこと。


かなり学問的にも深いところまで書かれていますが、ついついエンターテインメント部分に

きが取られ、思わず先に先にと読んでしまいました。


もう一度、じっくり読み直したら、理解が深まりそうです。


脳に興味のある人に、お薦めの一冊です。