2022年1月30日日曜日

【本】安倍晋三と菅直人 尾中香尚里 集英社新書

 東北大震災+原発惨事の時の菅直人首相と、新型コロナパンデミックでの安倍首相の行った行動の比較を分かりやすく書かれた本です。


災害発生時の深刻度は、原発惨事の方は短期X巨大マグネチュード、一方新型コロナの方は長期X大マグネチュードだと思いますが、国民の命をどう守るか、被災者をどう救済するか、国民にどう寄り添うか、一方、強制的な行動抑制など、危機時の責任者は決断し実行しなければならない場面になります。


そういう時に、二人の行動は現実にはどうだったのか。


行動の事実を、その時々の状況と共に比較する事ができます。


判断は、読者がすべきですが、二人には明らかに国民に対する向き合い方が違っていたことが良く分かりました。



コロナ禍になってから安倍政権、菅義偉政権の会見を沢山見てきましたが、うすうす感じていた事を明確に書いてくれており、おもわず頷いていました。


部分を写すと、

「記者会見における安倍政権の情報発信を振り返ると、①政権の「成果」を誇示する。②政権の「責任」ははぐらかす。③政権の「責任」が生じた場面では、「誤解」などの言葉を使い、国民全体を含む他者に責任を押し付けるーーという特徴がうかがえる。」


菅直人政権が最高だったと言うつもりは全くありませんが、客観的にみて、本当の日本国の危機だった原発惨事時に、安倍首相ではなく菅直人首相だったことは良かったと感じます。



当時、あれだけの本当の国難だったにもかかわらず、同じ民主党内からも政府の対応の足を引っ張る動きが出たこと。マスコミもそれに輪をかけて困難を克服していく事を第1にせず、憶測や観念的な批判の大合唱をした事。 私は、あまりに異常な政治とマスコミだと感じていました。


先日読んだ中村哲さんの本でも明快に書かれていましたが、この体質は、今も変わっていないのだろうなと悲しい気持ちです。


尚、この本では、明確な書き方はされてませが、どの国でも首相や大統領が病気で辞める時には、医師団からの説明発表があるのが当然です。安倍首相の2回目の退陣では、安倍氏が自身で体調が悪いと言っただけで、医師団からは一切ノーコメントだったと思います。


安倍氏が今も自民党の中で、権勢をふるっているらしいニュースを聞くと、「悪貨は良貨を駆逐する」という言葉を思い出します。

【本】紙屋 ふじさき記念館 ほしおさなえ 角川文庫

 たまたま、ほしおさなえさんの活版印刷三日月堂を読んでから、ほしおワールドにはまっています。


活版印刷三日月堂は、昭和時代の懐かしさのある活版印刷を新しい感覚で広げていくお話。


菓子屋横丁月光荘は、古い家の声が聞こえる主人公が織りなす物語。


紙屋 ふじさき記念館は、和紙の魅力を現代に生かしていく話。


どれも、ゆったりとした時間が流れ、昭和の記憶とつながる懐かしさのある話ばかりです。


悪人は出てきません。


温故知新というのでしょうか。 アナログの良さの再発見というのでしょうか。


世知辛く、デジタルで速さを求められる現代の中で、これらの本は 安らぎの時間を取り戻せた気にさせるものです。


夜、寝る前に読むのに最適です。


幾つかのシリーズが、皆 舞台は現代で、各々の話にでてきる登場人物や事象が他の話に自然とリンクして登場し、話が紡がれていくという面白さもあります。


読むときは、出版が古い作品から読むのがお勧めです。

2022年1月15日土曜日

【本】医者、用水路を拓く 中村哲 石風社

 アフガニスタンで襲われて亡くなった中村氏が2007年発刊で出された本です。


中村さんの事は、新聞やニュースで聞き、お名前と医師だけど医療だけではアフガンの人を救えないと用水路を自ら重機も運転しながら作って、現地の農業や、健康度の向上に大きな成果を作られた方という知識だけを持っていました。

亡くなった時には、現地人や現地政府をあげて悲しむという非常に信頼され、尊敬されていた。



この本は、どういう気持ち、考えで無謀とも言える用水路を作っていったかというドキュメンタリーです。プロジェクトX的な面白さも抜群ですが、それとともにアフガンの現地の人の実態と、アメリカ、国連、日本政府、政治家、報道、コメンテーター(有識者?)、国際NGO等のあまりに大きな乖離に深く怒りが湧きます。


日本のニュースや政府発表等を見て、聞いている「タリバーン」は男尊女卑の原理主義者の問題山積みの様に伝えられ、それを前提とした対応施策が正義の様に語られている様に思います。


でも、現地に根付いて活動している中村さんが現地の人から見える実態は大きく違う様。


この本では、現地のマジメな農民たちから立ち上げられたタリバーン。自治的な考えでのタリバーン方式。アフガン人の誰にでもタリバーン的な意識はある。


一方、テロにおびえる米軍兵や国連派遣軍などが、テロ掃討という名のもとに、一般市民をどれだけ殺し、それにより現地人からどれだけ嫌われているか。


日本が、平和憲法と平和国家という50年の実績で作り上げてきた信頼を、「普通の国」になる。米国に貢献するという政治家や報道やそれによって作られるムードによって、どんどん崩壊させてきている事。



これらの動きは、今の日本や世界でもそのまま形を変えて続いているのだと思います。


中村さんの努力と意志を素晴らしいと思うと同時に、中村さんが感じていた悲しみ・くやしさ・むなしさにも強く共感しました。


多くの人に読んでもらいたい一冊です。