2020年1月24日金曜日

【本】クーデンホーフ光子の手記 シュミット村木眞寿美 河出書房新社

明治時代の町娘が、オーストリア貴族の外交官に見初められて結婚し、欧州へ向けて旅行する間についての本人の手記。


村木さんがドイツ語で光子が書いた手記を日本語に訳した本。
子供たちに若くして亡くなった夫の姿を伝えたくて、思い出しながら手記を書いたものとの事。


当時の若い日本人女性から見た、アジアの国々の人々、インド、中東、欧州の人々。
そして、日本の人々についてがみずみずしい生の言葉で綴られています。


130年前の生の世界を知るのにとても面白い本です。


光子さん自身は、一人 異国の地で 沢山の子供をシングルマザーで育てた すごく強い人なんだと感じました。


現実にあったシンデレラガール物語と言えばよいのでしょうか?

【本】エミリの小さな包丁 森沢明夫 角川書店

私の好きなエッセイストの三浦尭子さんが書いている書評で、「世の男性を虜にして、涙腺を崩壊させる森沢明夫作品の魅力を探る」と書いてあるのを見て、森沢さんを初めて読んでみました。

森沢さんという存在自体を私は知りませんでした。


読んでみて。ハマリました。


確かに虜になって、どんどん読み進める。次のページを読むのが楽しみになりました。


読んで感じたのは、森沢さんは現代の山本周五郎さんなんじゃないかという事。


心がどこか温まる。


文章が上手いというのは当たり前として、主要な登場人物達がみなとても温かい。


物語の中身を書くのは止めておきますが、私は「おじいさん」に感情移入して読みました。


こんな孫娘が来て、一緒に時を過ごせたら どんなに嬉しいだろうかなど、、


森沢さんは、沢山の小説を出されているようなので、次の本を読んでみたいと思います。

2020年1月19日日曜日

【本】ローマ帝国 青柳正規 岩波ジュニア新書

先日のローマ教皇 フランシスコの訪日の時に語られた平和な世界へのメッセージを聞いてから、どうしたらそれが実現できるのかを考えています。

「国連」がその答えか? と思って何冊か本を読んで調べてみましたが、国連は残念ながら政治駆け引きの場、または、今だに第2次大戦後の戦勝国の体制を維持するための機関という事が続いている戦勝国連合による、戦勝国連合の為の組織という事が分かるだけでした。(国連憲章に、まだ敵国条項というのがあって、日本、ドイツはいまだに敵国として扱われているという事を、今の日本人はどれほど知っているのだろうか)


国連は各国が主権を戦わせている場で、日本人がイメージしている地球政府のような理念とは全く違う組織の様です。


一方、EUは多くの国の主権はあるものの、それを超えた主権をEUに認めて行われている連合組織であり、集団自衛(集団的自衛権では無い)を具現化しているという意味で、フランシスコ教皇のか言われた戦争の無い世界を目指した人類の試みだといえるのではないでしょうか?

EUをもっと調べようとした所、古代ローマをお手本としたのでは、、という話にぶつかり、ローマ帝国を調べてみることにしました。


ローマ帝国は何百年では足りないような非常に長い期間ありました。


シーザーとクレオパトラ、暴君ネロ、ハンニバルの像など、一部は面白くエンターテインメントとして映画などにもなっているので、私もそのレベルの認識はありました。


でも、この本を読んで、本当に小さな地域のローマ人が、どいういう風に拡大し、帝国を作り、そして滅びて行ったのかが良く分かりました。


共和制の建前の裏で帝国化をするなど、かなり大胆な政治の動きによって作られたのは、とても興味深いものだと思いました。


しかし、それ以上に感じたのは、シーザー達が活躍した紀元前数百年前の世界を、日本史で見ると縄文時代や弥生時代として、採取や農耕生活で非常に文明度が低い形で生活していると表している事。


記録や石作の遺跡が無いからかもしれませんが、ヨーロッパでの人々の暮らし(都市を持ち、軍隊を持ち、法律を持ち、民主制を持ち、科学技術を持っている)に比べて、日本の古代があまりに未開人的な表現しかされていない事に違和感を感じます。中国史に比べても同様です。

絶対に、そこには活発な社会があったはずです。


こんな貧しい日本史観は、やはり明治政府が政治的に作ったのでしょうか。

ローマ帝国史を読んで、とても寂しく、情けない気がしました。

2020年1月13日月曜日

【本】武器輸出大国ニッポンでいいのか 池内了、古賀茂明、杉原浩司、望月衣塑子 あけび書房

先日は東京新聞の望月さんの著書「武器輸出と日本企業」を読みましたが、今回は宇宙物理等で有名な学者の池内さん、元通産相官僚の古賀さん、武器輸出反対ネットワーク代表の杉原さんの4人が、寄稿して出来ている本。

望月さんとは違う視点での深堀した話が色々と載っていました。


「武器輸出と日本企業」では、”軍産複合体”という言葉が出てきていましたが、この本では”軍産学複合体”として より学問の世界での動きが書かれています。


私自身が理系出身+利益重視で生きてきたので、性能や機能を追求する事を第1に考えてコストや経費面では緩い軍需系に、技術者が惹かれる気持ちを持つ、誘惑を感じるのも分かる気がしています。


しかし、この本の池内さんの一文は心に響きました。
甘えを跳ね飛ばしてくれる気がしました。その章を抜き出してみます。

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研究者の言い訳ー「愛国心」とデュアルユースと自衛論

 現場の研究者たる大学教員や研究所の研究員は軍学共同についてどのように考えているのだろうか。その一例として、2016年4月に国家公務員労働組合連合会が行った、国立試験研究機関に勤める研究者を対象にしたアンケート結果がある(総回答数799)。それに軍学共同に関して、「産学官の共同での研究が強まるなか、防衛相や米国国防総省が予算を提供する『軍事研究・開発』に参画する大学や国立研究開発法人が増えています。こうした『軍事研究・開発』を進めるべきだと思いますか?」という設問に対して、「進めるべきではない」との回答が448件(56%)あったのに対し、207件の「進めるべき」との回答(26%)があった(無回答144件、18%)。20代から30代の若者の半分近くの賛成があり、その理由として①国立研究機関であるから政府の担うべき機能を支援するべきである、②民間への転用可能なら構わない、③科学・技術が発展するから、④研究資金が調達できるから、⑤自衛のため(国防のため)なら軍事研究は許される、が挙げられている。

 告知る試験研究機関の勤務者へのアンケートであるためか、①のような回答が多いのだろう。国から給料や研究費を得ているのだから国の言うことには従うべき、との発想で愛国心が強いのかもしれない。しかし、科学研究の国際性や普遍性を考えないのだろうか。国が命じれば原爆だって作るのだろうか、そもそものスポンサーは国ではなく税金を払う国民であるはずなのに、と考えてしまう。

 ②の意見は、本質的にはデュアルユース問題に関わることで、民生目的と軍事目的の区別がつかず、軍からの資金であろうと結果的に民生目的になれば8あるいは民生目的のつもりで研究すれば)いいのでは、という楽観的発想である。しかし、軍からの金である限り最終的には軍事目的に使われるのは当然であり、確実に民生利用となるわけではないことに気づかないふりをしていると言うべきだろう。この言い方は自分のアリバイのための口実でしかない。私は、研究現場においては軍事目的も民生目的も区別はないが、軍から出る金による研究は軍事目的であり、学術機関からの資金による研究は民生目的であると考えている。両義性とは研究資金の出所のことでしかないのである。そして軍からの資金は、民生目的の研究を軍事目的に横取りするために拠出されると考えるべきなのだ。

 ③と④は、軍事開発であれば比較的潤沢に金が出され、金さえ出れば科学・技術は発展すると言っているに等しい。科学・技術が発展することのみが研究の目標となってしまうと、誰のための研究か、何のための研究か、について省察しないのだろう。また、現在の「選択と集中」という科学技術政策のひずみによって経常研究費が激減してしまい、「研究者版経済的徴兵制」の実態で、事実上文科省の予算配分方式が研究者を軍事研究に追いやっているのである。この問題は大学政策とも深く関係しており、日本のあるべ学術体制として深刻な議論を重ねなければならないと思う。

 最後の⑤の「自衛のためなら軍事研究も許される」と単純に言う研究者は実に多いが、先に述べたように単純な自衛に留まらず軍拡競争に巻き込まれ、最終的には核兵器の保有・使用にまで行き着いてしまうことを忘れている。結局、自分は戦争に巻き込まれないと思い込み、情緒的に国を守ると言って研究費をせしめようとしているだけで、きちんと国の将来を考えているわけではないのは明らかである。

 デュアルユースの議論も含め、研究者は軍学共同に携わるとはどういうことか、現在だけでなく将来の科学・技術はどうあるべきで、軍学共同はいかなる影響を与えるか、などをじっくり考え議論する必要がある。現在の科学者は、過当競争や商業主義に追われて近視眼的になっているという状況を反省すべきではないだろうか。

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以上ですが、勿論 研究者の自覚だけでは解決しない(経済的圧迫なども含め)問題であり、部分ではなく全体での議論や政策が必要になると思います。


後半にある杉原さんの書かれている”軍事費を削って暮らしにまわせ”という章によると、例えば2015年に国連で合意されたSDGsの内、予算措置を必要とする15項目については、世界の軍事費の2/3で達成が可能だとか。また日本にイージス艦3隻分の費用で、全国で必要とされている3300か所の保育所建設費が賄える。安倍政権発足後に膨らんだ軍事費の差額3400億円あれば、保育士の給与を月5万円アップしてもおつりがくるというデータもある。

軍産学複合体が形成されて、戦争が起こるとチェンスだと思い、戦争が終結しないで欲しいと思うような人が増えていくことは、日本人にとって不幸方向だと私には思えました。

2020年1月5日日曜日

【本】武器輸出と日本企業 望月衣塑子 角川新書

2016年に発刊の本です。


日本としてずっと禁止してきた武器輸出を、換骨奪胎して推進しようとする政治家、官僚のやり口。それにどんどん引きずりこまれ、追い込まれていく大学や研究者。一方、少し冷静にみている企業側という構図が良く分かりました。


経済とパワーポリティクスだけしか考えない指導者?達により、崩されていく日本社会の姿がここにも表れている気がします。


IR法でも同じ様な匂いがしますね。



なるほどと思ったポイントを書いてみると、


<米国>

・有名な米国の「軍産複合体」は、第2次大戦前はなかった。

・原水爆を作ったマンハッタン計画で、科学者と国防総省、軍事企業との結びつきが生まれた。

・マンハッタン計画の科学者は米国の有名大学に散り、結びつきは大学がらみになっていく。東西冷戦において、それらがどんどん発展して「軍産複合体」になっていった。

・「軍産複合体」は莫大な資金で政府・行政にも影響を持つようになっていく。

・とは言え、まだ科学者は軍事に科学を使う事に抵抗があったが、ソ連の脅威を強調したレーガンの戦略防衛構造(SDI)が始まると、科学者も国防総省からの研究資金を受けることに抵抗感が減り、巨額の金が科学者に流れ込むようになった。

・ソ連の崩壊で冷戦が終わると、クリントンは国防費の削減を打ち出した。それに併せて、軍事的な研究成果を民需に転換するスピンオフや、逆に民需の研究成果を軍需に応用するスピンオンの政策を推し進めて、「デュアルユース」(軍民両用)という言葉を多用することになった。

・結果、国防予算を縮小しても軍事開発費そのものは拡大していくことになった。

・今も膨大な武器輸出を米国はしている。(紛争を起こして 需要を作る という事も、、)


<日本>

・戦後、武器と関連物の輸出はしないという武器輸出三原則を決めて、政府を含め国として堅持してきた。
 (地雷発見機など、個別には例外規定を作る事はあったが、弾薬など殺傷品の輸出は無い)

・経団連が武器輸出を政府に求め始める。

・自衛隊向けだけでは市場規模小さい。企業は競争力のある武器は作れない。できれば防衛関連のビジネスはしたくないのが本音。

・第2次安倍内閣で、輸出容認に転換する「防衛装備移転三原則」を閣議決定。
  一定の審査を通れば輸出が可能な仕組みとなり、従来の三原則での「紛争当事国になる恐れのある国」は禁輸の対象から外された。
  韓国に弾薬を輸出をした。

・防衛装備庁という組織を作って、武器輸出をさせようと企業に働きかけ開始。日本の武器(自衛隊向け)は国際競争力なく、企業側は乗り気では無い所が多いが、無理やりでも巻き込もうとしている。

・大学等の研究者に対しては、文科省からの交付金を減らしていって、政府が望む方向の研究には金を出すという競争的資金(皆が応募して政府側が誰に金を出すか決める)獲得に走らざるを得なくなる状況を作った。又、民需用の技術開発という表面上の名目で、防衛省がらみや、米国の軍事がらみからの資金で研究する場を設けて研究者を呼び込み。そこから有望な技術はデュアルユースという名目で軍事に使おうと考えている。

・東大はずっと軍事に使われる科学技術研究はしないと決めてきたが、2015年浜田総長は軍事研究も解禁した。(学内からは反対が声が多数あった)

・現在 軍事関係資金を使って研究している研究者は、私は科学技術を極めることが目的。それをどう使うかは、使う側が決める事と開き直っている人も増えてきている。本人は好きな研究ができて面白いのだろう。

・研究者個人個人の倫理に頼るのには限界がある。


という感じでしょうか。


昔の政治家、官僚は もう少し 国民の為という視点や非戦争 の意識があったと思いますが、どんどんおかしな方向に進んでいると思います。

米国流の ”力で脅し、戦争で儲ける” というのが日本の「美しい国」の姿と思っているのでしょうか。

2020年1月4日土曜日

【本】アルテミス アンディ・ウィアー ハヤカワ文庫SF

著者のアンディ・ウィアー氏は、邦題「オデッセイ」という、火星に一人取り残された宇宙飛行士のサバイバルの映画が昨年ありました。見に行ったのですが、久々に面白い!と思えたSF映画でした。

スターウォーズ等とちがって、ちゃんと科学的(物理学に沿った)な中でのストーリー展開になっていましたし、手に汗握る 絶対的危機(火星独りぼっちなので、殺人鬼は出てきません)を知恵で切り抜ける姿がすごい。


という事で、原作 「火星の人」ハヤカワ文庫SFも読んでみました。そうしたら、映画よりもずっと面白いという事にビックリでした。


そこで、アンディ氏の第2弾の「アルテミス」を読んでみました。

舞台は月に変わりましたが、変わらずちゃんと科学考証にのっとった世界の中で、手に汗握るサスペンス、アクション物語。しかもとても面白い。


この作品も映画化が決まっているとの事なので、今年か来年でも封切られるかもしれません。それも楽しみです。


彼の作品は、アーサーCクラークをもっと面白くした感じとでも言えばよいのでしょうか?


もっと読みたくなります。早く 第3弾の作品を書いてくれないかな。


実に楽しみな作家さんです。