2016年2月11日木曜日

【本】海の翼 秋月達郎 新人物文庫

昨年の大晦日の晩は、紅白も面白くないので、
その時間に映画を見に行きました。

「海難 1890」という日本とトルコの合作
映画です。

明治時代にトルコから日本に表敬訪問に
きたトルコ軍艦エルトゥールル号が和歌山
沖で遭難し、串本町の島の人々が手厚く
救助と介護、そして日本がトルコまで
乗組員を送り届けました。

それの事をトルコでは教科書にも載せ
ずっと全国民に教え、伝えられている
とのこと。

遭難から95年後の1985年。イランとイラク
が戦争になり、どんどんミサイルが街に飛
んでくる状態になりました。イラクのフセ
インが2-3日の猶予だけで、それ以降イラ
ン上空を飛ぶ全ての飛行機を無差別攻撃す
ると宣言し、イランにいた外国人は大急ぎ
で逃げ出そうとしました。
当時、日本からイランには直行便はなく、
テヘランに居た数百人の日本人は逃げ出す
事ができなくない、万事休すの状態になっ
てしまいました。日航も自衛隊も飛行機
を出せません。その時にトルコが日本人
の為の救援機をトルコから飛ばしてくれ
たのです。しかも、トルコ人もまだテヘ
ランに沢山いたにも関わらず、日本人を
優先的に乗せて逃がしてくれました。
これは、トルコ国民の中で、日本人が困
った時には、エルトゥールル号の恩返し
をすべきという常識が出来ていた為との
事。日本人は殆ど知らない(覚えていな
い)昔の事を無私の気持ちで返してくれ
るというのは、本当に奇跡と言ってよい
のではと思います。

この実話を映画化した物。

大晦日の夜というタイミングだったの
で数百人入る館に10人程の人しか居ませ
んでしたが、私も含めて何人もの人が
感動で泣いている様子でした。

この映画を見てから、この「海の翼」を
読みました。映画では出ていなかった、
幾つかの重要事項がこれを読んで分かりました。

エルトゥールルの乗組員を日本国がトルコ
まで送り届けた事。当時のトルコはロシア
の強い圧力に曝されており、日本と同じ
境遇だった事。(それが、日本に親善渡航
してきた理由の一つでもある)
そして、このトルコに送り届けた日本人
メンバーが何人かイスタンブールに残り、
その後始まった日露戦争で、重要なロシアの
動向をトルコ国民の協力を得ながら収集し
日本に通報した事によって、バルチック
艦隊を破る事が出来た事。ロシアを破った
という事は、トルコの国民にとっても大変
に嬉しい出来事で、エルトゥールル号の事
と憎いロシアを日露戦争で破ったこの2つ
の事で日本に対して非常な親近感を持って
くれていたとのこと。

テヘラン危機の時に、なぜ日本は飛行機を
出さなかったのか、トルコ首相へどうやっ
て救援機をお願いし、どうやって決断をも
らったのか。

等。ネットで更に記事を探していくと、
当時の政府の対応のチグハグさもあった
ようです。

実は、本日ヒット中の「オデッセイ」という
火星に取り残された宇宙飛行士のサバイバル
映画も見てきました。お客は沢山入っていて
興行的には良いのでしょうが、非常に無理の
ある設定下で色々サスペンスを味あわせると
いう感じ。他の新作映画も殆どが架空の設定
下で感動を無理やり創造しようとしている物
が多いと思います。

それに比べて、この話は事実は小説を遥かに
超えて、人間はこういう奇跡を起こせるのだ
という事を伝えてくれます。

こういう話は、日本も教科書で教えて伝えて
行くようにすれば、武力に頼らない外交とは
どういう事なのかが浸透していくのではない
でしょうか。

一見の価値のある映画と、一冊です。

2016年2月6日土曜日

【マーケティング】すごいなと思ったマーケティング手法

私はAKB48は殆ど見ません。なんだか幼稚園
のお遊戯を二十歳前後の女子にさせている
様で、情けない気がするのです。

なんで、日本の芸能界やゲームの世界は
ロリコンマーケティングなのだろうか、、と
常々思います。

という事で、AKB48の曲は殆ど知らないの
ですが、知人が数年前「見て見て、俺の
故郷が出てる」と見せられたのが、地方
の素人が踊る「恋するフォーチュンクッ
キー」でした。恋チュンですね。

先日、暇な夜があってユーチューブで
恋チュンの色々なバージョンをまとめて
見てみました。流行ったのは数年前です
が、今見ても 面白い。

当時は、この恋チュンを色々な企業や
地方自治体(県や市)、学校など沢山
の団体が各々自主的(?)に動画を作っ
てアップしています。

恋チュンブームですね。

改めて、これを見て このブームはどう
やって仕掛けたのだろうと思いました。

広告代理店かプロダクションが戦略的
に仕掛けたのだと思いますが、最初の
AKB48のプロモ動画から、一般の集団
(幼稚園の園児や学校の部活、教室、
プロレスラー達、スーパー、体育館で
沢山の一般の人となどなど)と踊る
シーンを沢山盛り込んだものになって
います。

次に出たのが、スタッフVer.として
AKB関連の色々なスタッフが小集団で
踊っています。一つの小集団のカット
は数秒だけで、沢山の色々な
カットを繋げて1曲になるという動画
の作り方になっています。

髭のおっさん達が付け髪してスカート
はいて踊るというのは、悪ノリにしか
見えませんが、、

この後、色々な企業が会社紹介を兼ねる
形で色々な部署の社員が躍るPR動画を
作ってAKB公認を取る。という事が拡散
していった様です。

佐賀県や神奈川県などの自治体までも
がPR動画を作り始めるし、大学Verも
増えていきます。

自治体も企業も最初の1,2個はきっと
AKB側が水面下で頼んで仕掛けたので
はないかと思いますが、それ以降は
自己増殖していったと思います。

動画を作るのはなかなか大変な工数
がかかるのですが、それでもこれだけ
増殖したのは、最初から作り易いスタイル
がしかけられていたから。

シロウトが上手く沢山踊れる訳がない
のですが、各グループで撮影された中で
使わるのはほんの数秒だけだし、上手く
踊らなくても良い(スタッフVerで、下手で
も楽しく、元気ならば結構という手本が
示されている)という前提なので、出演
する方も気楽に出られる。

しかも、小集団で踊るので、羞恥心も
薄まるし、皆がやるなら仕方ないか、という
気にもなる。

企業は、自社がこんなにフランクで明るく
良い会社なのだというアピールが出来る。
しかもAKBというビッグネームでPV数を
簡単に稼げる。というメリットがある。

AKB側からすると、踊った人はその知り
合いに「見て見て」と口コミするので
話題性と認知度がが格段に上がる。

AKB側も自主動画作成側もWinWinになれ
る構図ですね。

動画を見ていると、女性は年齢に関係
なく、踊るが嬉しそうな人が多いよう
にみえます。楽しいのしょうね。

いいセンスのプロモーションだったと
思います。

結婚式場で突然踊り出す フラッシュ
モブも流行った様ですが、踊る側は
面白いだろうな。。



【本】音のイリュージョン 柏野牧夫 岩波書店

エッシャーのだまし絵や、トリックアートなど
錯視の例は時々見かける事があります。

それに比べて音のイリュージョン=錯聴はあまり
知られていません。

でも、物理的な事実と聞こえてくる(と思う)
現象が異なる事がやはり沢山あるとのこと。

人間は視覚も聴覚もノイズ等が入っても意味
を取れるような情報解釈のメカニズムを持って
いる。

音声を定期的に意図的に抜いてその時間は空白
をいれた会話は、そのまま聴くとブツブツ切れ
た様に聞こえますが、空白の所に意図的にホワ
イトノイズの様な物を入れると、会話自体は
滑らかに喋っているのに、そこにノイズがの
った様に聞こえて、意味が良く分かります。
欠落した情報を、上手に補間してくれている
という事になります。

音楽でも同様で、ブツブツ途切れてスタッカート
の様になっているメロディーが、ノイズを入れる
と滑らかな演奏にノイズが載っている様に聞こ
えます。

又、一番驚いたのが、実は物理的に耳に音波が
入っても、人間が聞こえるのは0.1秒以上遅れ
るとのこと。

ノイズを入れると音楽が滑らかに聞こえる
というのは、ノイズ前の音とノイズ後の音を
検知してそれを繋いで解釈するから。こういう
解釈や情報処理に時間が必要なので、物理的
な「音波振動」と「聞こえる」事にはタイム
ラグが生まれる。

又、視覚と聴覚の連携で脳の解釈が変わると
いう事も起こる。両側から一直線上に白い四
角がやってきて、真ん中でぶつかって反射
する様にみえる映像も、無音だと二つの四角
はすれ違ってそのまま進んでいく様に見え
るが、二つの四角が重なる瞬間に音を入れる
と二つの四角はぶつかって元の方向に各々
跳ね返っていく様に見えます。

これらの、錯視・錯聴はネット上の
「イリュージョンフォーラム」という所
で色々な実例を見る事ができます。

面白いので一見の価値ありです。

錯聴は錯視に比べて、まだまだ研究途上
の様ですので、今後 錯聴を活かした表現
やトリックが生み出せそうな気がします。

悪用されると恐い様な気がしますが、面白
ろそうな世界です。

2016年2月5日金曜日

【本】明石大佐とロシア革命 小山勝清 原書房

日露戦争は日本がロシアに勝った有名な戦争
ですが、学校ではそのまま戦争が続いたら日本
は疲弊して結局負けていたと思われる。そういう
事態になる前に、終戦できた事が勝った大きな
要因だと習った記憶があります。

そして、なぜロシアは敗戦を認めたかは、欧州
で手を焼く事態が勃発して、日本と戦争してい
る所ではなくなったから。とも習いました。

でも、それは偶然ではなく、日本のスパイに
よって欧州不安が仕組まれた結果との事を
うかつにも知りませんでした。

その諜報員が明石大佐。その後、陸軍大将や
台湾総督にまでなった人です。当時、数百
億円相当の資金を使って、ロシア内に反政府
運動を起こさせたとのこと。それが、結局は
ロシア崩壊(ロシア革命)とソ連邦の成立へ
のつながって行ったとのこと。

この本は、ノンフィクションである。と書いて
あるが、現実は史実をある程度なぞった小説
です。

ここでの明石大佐は、会う人、会う人を心服
させる偉人の様に描かれていて、ヒーロー
サスペンス物という感じです。

現実の諜報活動はもっと、冷酷で泥臭い物
だったのだろうと想像しますが、当時のロシ
アの情勢など雰囲気は良く伝わってきます。

私はフィンランドやポーランドが当時はロシア
の一部で、ロシア革命で独立していった事も
知りませんでした。

こういうスケールの大きな日本人と、それを
実行させると肚を決めた日本の政治家?がい
たという事に驚きました。

なんだか、大きな事も出来るという希望が持
てるような気がしてくる一冊です。

【本】老いを遅らせる薬 石浦章一 PHP新書

アンチエイジングという言葉が流行ってから
かなり経ちます。

でも、この本はそのまんまズバリの題名の本。
思わず見てしまいました。

「日本人は世界一、薬が好きな国民」と言われ
ているそうです。でも、一切 薬育(薬の教育)
はされてません。薬が効くという事は、生体に
対して異常な事が起こっているのです。副作用
がない薬など、本当の作用だってないという事
は子供にだって分かるでしょ。売薬や医者に処
方された物を、内容も見ず飲んでいませんか?
効能だけでなく副作用にも注意をしなければ
いけません。

というのが、巻頭のメッセージです。

そして、サプリメント、うつと統合失調症、
認知症など脳の老いに効く薬(アルツハイ
マーなど)、パーキンソン病と老化現象、
元気になる薬(疲労回復とアンチエイジング)、
薬はどの様に作られるか、という内容になって
います。

細かい話や専門的な話も出てきますが、
薬は効くとしてもかなり限定的な範囲なんだ
というのが分かった気がします。。

副作用についても、色々出ていますが、
元々は別の目的の薬だったのが、副作用の
効果の方に注目が移って、そちら向けの
薬となったものも多い様子。正に、試行錯誤
で進化する世界の様です。

私の感想としては、もしかしたら「思い込み力」
を向上させて、プラシボ効果で症状に対処
していくというのが、最も賢い生き方なのでは
ないかと思いました。

著者の意図とは異なると思いますが、
「アンチエイジングはアンチメディシンで。」
という事でしょうか。


2016年1月16日土曜日

【本】島津斉彬 加藤蕙 PHP文庫

明治維新に導いた西郷隆盛、大久保利光、
五代友厚、島津久光などに方向を示し、
メンターであり、モチベーションの源泉
でもあった島崎斉彬。

どういう人物だったのか、どうしてその
様な人が生まれ育ったのかを知りたくて
この本を読みました。

とはいえ、題名とは裏腹に、半分以上の
ページは斉彬の曽祖父、祖父、父の話
に割かれており、斉彬に関する所も、父
との確執とお由良騒動が殆ど。斉彬が
藩主になってからの事は本当にあっさり
史実を書かれています。

斉彬が家族、家中の逆風に会いながらも
日本と藩を改革していこうとする姿は
どれだけ辛い人生だったろうと感じます。

早くから父から藩主を受け継げれば良かった
のだが、財政面での立て直しを成し遂げた
成功者の父は、その座を譲る気は無い。

革新的な斉彬よりも、自分の路線に近い
久光を無理やり後継者に置き換えようと
する父との戦い。そのごたごたより斉彬
の有能の部下達が根絶やしにされる。

確執が無ければ、もっともっと早くから、
斉彬による日本改革は進んでいたかも
しれません。又は、討幕ではなく、幕府
改革をして違う日本の姿になっていた
かもしれないと想像させます。

斉彬のカラッと明るい表面の裏に隠され
た苦悶も含め、よく感じられます。

読後感は「重い」ですが、斉彬を
知りたい人には面白い1冊です。

2016年1月13日水曜日

【本】明治維新とイギリス商人 トマス・グラバーの生涯 杉山伸也 岩波新書

五代友厚を語る時に切っても切れないのが
グラバー商会。
長崎のグラバー邸も有名ですね。


でも、グラバー氏がどういう人だったの
か、ちゃんと分かっていませんでした。


幕末に薩長の貿易振興や武器入手に協力
した商人という事は学校でも習った覚え
があります。

とても有名で、大商人というイメージ
ですね。

でも、本当は彼が貿易商としての活動は
わずか10年間にすぎなかったとの事。


イギリス生まれ、イギリス育ち。
18・9才で上海に渡り、21才で来日。
23才で大きなイギリス商会の代理店
業を開始。色々な海外商社の代理店
をしていたので、貿易も艦船も武器
も売買する事ができたとのこと。

初期はお茶や生糸、両替などで利ザヤ
を稼ぐ商売をしていたが、幕末の動乱
期にどんどん業務や規模を広げて行っ
た。

日本の各藩や幕府からの要望で、売上
の減って来ていたアームストロング社
に大量の兵器を発注して、アームスト
ロング社も大喜び。 という時代の
連鎖を生んだ。

五代友厚とは特に親しく、五代28才、
グラバー25才で議論を通じて共感を
得て行ったようだ。グラバーの妻も
五代が世話したとのこと。

ただ、グラバーは多額の借金を背負
っていて、明治になってから最後は
倒産してしまったのだが、彼の情熱
で高島炭鉱を作り上げたし、高島炭鉱
を三菱が買うと、三菱の顧問や、鹿鳴館
の書記や、キリンビールの前身を立ち
上げたりした。

明治41年には外国人としては異例の
勲二等旭日章を受けた。そして、日本
で亡くなったとのこと。

政治の好きな商人。経済人、企業家。
そして、情熱の人という印象です。

幕末・明治維新の時代が作った快人
という感じですね。



最後に、この年まで知らなかった事
が一つありました。それは「東インド
会社」。

学校でこの名前は何回も聞きましたが、
それが一つの会社ではなく、各国が国毎
に作った会社(イギリス東インド会社、
オランダ東インド会社など。。)
という事だった事を、この本で初めて
ちゃんと理解できました。。。