著者は国立遺伝学研究所の現役教授ですが、「現状の日本の科学研究に関する不都合な真実」をぶっちゃけています。
これが岩波科学ライブラリーで出されている。
つまみ食いで内容を書くよりも、”はじめに”に書かれている事が全体をよく表しているので、転記します。
「 科学の進展は世の中で華々しく紹介されている。特に医療や健康面で科学への期待は大きく、新聞には優れた成果が続々発表されている。しかし、少し長い時間軸でみてみよう。ヒトゲノムがわかったのに、青色ダイオードがもたらしたような身の回りの変化は何も無い。ガンは相変わらず外科的に治すし、認知症も治療できない。ではニュースで聞く数々の新発見はどうなっているのだろう。
研究者として肌で感じるのは、商業主義に偏っていく科学界の姿である。日本の政府はお金が無い。大学は自己収入を増やすよう求められ、研究者は「役に立つ」(=カネになる)研究をしろといわれる。そうしたウラ事情により、研究のスタイルや論文の書き方は、いま大きく変化している。しかし、それは世の中にあまり知られていないようだ。
筆者はそういう困った事情を雑誌「科学」に連載してきた。ようやく1冊の本にまとめることができたので、読んでもらえれば科学の現状がわかると思う。ねぜプレスリリースが実態を伴わないのか、なぜ捏造が増えているのか、なぜ研究者は疲弊しているのか、科学に興味を持ってくれる人には、解決策も一緒に考えてもらいたい。」
本書の中では、色々と具体的な実例で 科学研究の常識と言われる事の裏事情を解き明かしてくれています。
これを読んで感じるのは、科学と呼ばれてきた分野は「商業化」「政治の道具化」がどんどん進んでいる事。
一般人の頭では、旧来の科学者のイメージが残っているが、現実の科学者はどんどん変わっている、変わらざるを得ないようになっている事。
私にとって、科学の商業化と感じる最も身近な例は、テレビの番組で医師や大学教授という肩書で登場してくるコメンテーターが、最新の医療情報ですといって先月米国で発表された論文ではこんなことが(例えば、コーヒーを飲む人はxxガンの発症率がこれだけ少ない等)発表されました。とあたかも正確で日本人にも適用できそうな口ぶりで紹介するバラエティー番組など。
本書によると、臨床前研究の論文成果を検証したところ(うち7割がガン研究)、再現性が得られるのはわずか25%という事実がNature誌で報告されているとの事。しかもインパクトファクター20以上の超有名誌または5~19の有名誌に掲載された論文のいずれにおいても、再現性のないほうが多く引用されているらしい。
そして、著者は「世の中の通念と異なり、われわれ研究者は出版される論文の内容が正しいとは微塵も思っていない。そもそも研究者は捏造データと不正確なデータとを区別しない。研究者には(捏造を含む)不正確なデータから正しい情報を見極める能力が要求されている。疑わしい論文なら引用しないで終わりである。自分で論文内容を精査するのでゴミが混じっていても問題視しない。捏造があまりに悪質で、研究者仲間からも見放された場合のみ、少数の腐ったリンゴとしスケープゴートにされる。痛み腐りつつあるリンゴはたくさん見かけるが、その白黒判定に労力を割きたくないのが実情だ。」との事。
日本の科学の世界。このままで良いはずはありません。
政治からの独立性をどう持たせられるのを、もっと民衆の声として問題視しないとこの悪い流れを変えられないのかなと感じた本でした。
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