2017年7月15日土曜日

【本】なぜ戦争は伝わりやすく平和は伝わりにくいのか(2) 伊藤剛 光文社新書

・メディアの言う「公正中立」はメディアの専門用語
保田裕之氏の著書では、【報道するという行為自体がすでに主観的ではあるのだが、商品(報道、ニュース)が売れる(広く受け入れられる)為には、「中立性、客観的」という加工を施さなければならないのだ。
つまり、「中立性、客観的」という単語は、文章作成や情報加工する上での”技術的な問題”であり、一般的な「平等・公平」というような意味とは異なり「メディアの専門用語」として理解すべきものなのである。】
メディアの言う客観性は、数学や物理で言うものと全く異なるもの。

・「大衆」から「群衆」への変化
 群衆の定義:
  過激に走りやすい、衝動的である。暗示に弱い。
  同一化する。服従する。など

 同一化
 「おかしいな」と首をかしげつつも、思わず正しい判断
 を捨て、「間違った多数者の判断」に同調していく。又は、
 社会的な権威を持った少数者に頼る。(医者や弁護士、
 科学者など)

 服従の心理 ーー有名なアイヒマン実験ーー
 「記憶と学習に関する研究」に参加するという事でやって
 きた人を2人ペアにして、白衣の教授が1人を先生役、もう
 一人を生徒役に任命する。各々別の部屋に分かれて、先生
 役から生徒役に問題を出し、回答させる。生徒役は電極に
 繋がれ、回答を間違えたら先生役が電流を流すスイッチを
 押す。電流は弱から”危険・過激な電流”まで30段階のス
 イッチがあり、だんだん増やしていく。スイッチを押され
 ると、ある強さからは生徒役の苦しむ声や「もうやめてくれ」
 という声が先生役に聞こえる。(実は生徒役は全てサクラ
 で、電極は付けずに、声だけ出して演技している)。スイ
 ッチを押すのを先生役がためらうと、教授に押すように
 言われる。 実験の結果、約6割の先生役の人間が”危険な
 最大値”までスイッチを押した。
 これは、以下の理由が考えられる。
 ①人は権威(白衣を着た教授)から与えられた役割を果た
  そうとする。
 ②(教授との)約束に対する「一貫性」を持とうとする。
 ③自分で決定したことではない。という気持ちを持つ。
 この実験で、一定の条件下では「普通の平凡な市民」でも
 冷酷で非人道的な行為を行う事が証明された。

ただ、4割の人は実験の途中で降りた。こういう行動が出来る人が増えれば、「多数の判断」にしていく事が出来ると信じたい。

・平和を教育する。
歴史の「共有化」  2007年 ドイツとフランスでお互いの高校で「共通歴史教科書」が使われることになった。キッカケは、ドイツ・フランス友好条約40周年に両国の約500人の高校生たちが、時代に合った教科書を作る様に政府に提案した事。
両国から歴史専門家が数名づつ選ばれて完成させた。ドイツ語版、フランス語版とも全く同じ内容で、”特にユダヤ人虐殺のホロコーストについては、ドイツの視点だけではなく、世界がどのようにこの出来事に向き合っているのかが詳細に示されているのだという。
共通教科書を使っているドイツ人生徒は次のような感想を述べている「フランス人のものの見方が分かるので、相手をより理解できるようになりました。
相手の考えを理解すれば、戦争はより起こりにくくなると思います。
この教科書で学ぶことで2度と戦争が起こらないようになる、とまでは断言できませんが、相手への理解が深まるのは確かです。」


ヨーロッパでは、現在EU全体の共通教科書の実現に向けた取り組みも始まっているという。
これが出来た背景には、政治レベルでの良好な関係構築への努力があった。
平和教育に於ける国家の役割というのは、「教育レベル」で国民に何かを学ばせるかを決めることではなく、他国との関係を構築する「外交レベル」の方がより重要な意味を持っている。

以下 3につづく。

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