社会心理学者と進化生物学者の対談本です。
最初にこの本を読むと、世間知らずの学者が好きな事を言っている と思う人もいるかもしれません。
でも、読み返して見ると 実はそうだったのか と感じさせる内容の本です。
気になった点をいくつか書き出してみます。
・「おばあさん」がいるのは人間だけ。
ヒト以外の動物では、繁殖能力の無くなったメスはその時点で寿命を迎えるのが通例。
ヒトは脳が大きいので、小さい未熟児の内に産む必要がある。(本当なら妊娠期間3年が妥当らしい)
ヒトは未熟児の上に、成長に時間がかかる生き物で、子育てに非常に手間がかかるので、母親一人で育てる様には出来ていない。
「おばあさん」や社会を含めて共同繁殖をしていく生き物。
つまり、”母性が足りない”とか政治家が良く言うお説教は意味を持たない。もともと、ヒトの子育ては「母性だけでは全く足りない」のだから。
政治は説教ではなく、共同繁殖できる仕組みを作るべき。
海外では、妊婦に話しかけ、激励し、安心させる役割の人がいる事があり、その人が付くだけで正常分娩率が一桁良くなる。
・少子化の原因
ヒトの一生のエネルギー分配は「自己投資」「配偶者選択」「子育て」の3つに分けられ、現代は女性の活躍の場が増え、自由恋愛も理想の相手を探したいとなっている。
となると、「自己投資」「配偶者選択」にエネルギー分配が多くなり、「子育て」に振り向けるエネルギーは少なくなる。
又、「子供のペット化」も起こっている。
今の官僚、政府、政治家は「心でっかち」の話ばかりしている。スローガンや説教ばかりを言っていて、それで問題が解決する様な事を言う。
彼らがしなければならないのは、お説教ではなく制度設計。
1950-60年代は、日本人の出生率は4ぐらいあり、人口爆発になりそうだった。それを止めるために当時の官僚達は「移民の奨励」「2DK住宅の普及」を進めた。
団地で家電製品に囲まれて暮らすのが文化的と宣伝し、ブームを作ってあっという間に出生率は2へ下がった。
お説教ではなく、こういう制度設計で現実を変えていく事が必要。
・脳はコンピュータとは異なる。
良く脳をコンピュータに例えて、何にでも対応できる万能の物を様に言う人がいる。
でも、脳はヒトの臓器の一つで、進化の過程で当時のヒトの直面した課題への対応する能力を獲得して来ているだけで、万能ではない。
その脳には、進化の過程で埋め込まれている(プログラミングされている)事がある。
ー「心の理論」
相手には自分と同じ様な心があると仮定してして
つい考える。
人間社会はこれにより”心の読み合い”をお互いに
する事で一種の安定状態を得ている。
ー「共感する力」
相手の痛みをついシミュレートしてしまう。
だから、いくら怒っても相手を思いっきり殴れない。
(このプログラムが壊れている人も世の中にはいて、
残忍な事を平気でしてしまう)
ー「利他行動」
集団生活をする事で、ヒトは生き延びてきた動物な
ので、互恵的な本能がある。
同時に、裏切り者を探知する高感度の本能もある。
裏切り者を見つけたら、集団から追い出す。
ー「他人の眼」
他人が自分をどう思うか考えてしまう。
他の人と相対的に考えたり、先を考えたりして
しまうので、絶望したりする。
チンパンジーは絶望しない。
ー「集団内の空気を悪くしたくないと考える」
日本の文化は「和」ではなく、ネガティブな協調性
で事を荒立てない。荒立てると損する環境にある。
日本の社会は いい子 を強制される。ビクビク系文化。
でも、文化は環境で変わる。終戦の時は、1日で皆の
言う事、考え方がひっくり返った。
それも分からずに、「気配り」は日本の文化伝統など
と本気で信じている人がいる。
ーヒトが理屈抜きで守ろうとする道徳律
<すべし/するべからず>
ケア/危害
公正/欺瞞
忠誠/背信
権威/転覆
神聖/堕落
自由/抑圧
以上が進化の過程で刷り込まれている道徳律。
これに、グローバル化の現在は、
平等/差別
が必要になっている。
数百万年の間で生き延びて、進化してきた脳のままで、この短い期間で何もかも変わってしまった現代の環境を対応しているというのが現実の姿。
そこを、よく認識すべし。
という感じ。
ヒトには刷り込まれている心の動き方があり、それに動かされているという事を知りました。
言われてみれば、凶悪犯なども肉体的には大したことは無くとも、「残忍な事が平気で出来る」という事だけで、周りに恐怖を与えるという事を納得できました。
0 件のコメント:
コメントを投稿