最近、日本の大学の入試裏操作や、博士取得がどんどん減っていたり、研究者は非常に不安定な生活を送っている等の話を良く聞きます。一方、ノーベル賞を取った研究者はアメリカに渡った人が多かったり、アメリカの大学と研究は質が高そうというイメージがあります。
この本は、親娘での共著になっており、アキさんはウィスコンシン大学のテニュア(終身雇用)准教授をされています。米国大学事情をマスコミ的に伝えるのではなく内側から見た赤裸々な姿として教えてくれます。
この本を読んで、アメリカの大学ビジネス(?)の事情が理解できたのと同時に、ボンヤリ今まで持っていたイメージの裏側が見えてきました。
読んで、私が エッ! そうだったの?と思った点を書いてみます。
・アメリカ人は大学教授にあまりいい印象を持っていない。
終身雇用がほぼ約束されるテニュアを持つ大学教授に風当たりが強い。アメリカの一般企業は解雇が日常茶飯事で行われる。雇用が不安定なアメリカではテニュアは特権階級的にとられるのも否めない。又、インテリ層の大学教授は浮世離れしていて、大学の講義内容なども現実社会では全く応用性がないと思っている人は多い。
テニュアを排斥しようとしている州もある。
・大学世界ランキングが発表されているが、TOPは英語圏の欧米で占められている。審査では論文の「引用度」が大きな割合を占めるが、英語が公用語でない日本は圧倒的に不利になる。引用頻度の審査対象とされる学術誌は殆どが欧米で占められている。
・アメリカの学部生にとっての「名門」大学は、アイビー・リーグ。ブラウン大学、コロンビア大学、コーネル大学、ダートマス大学、ハーバード大学、ペンシルベニア大学、プリンストン大学、イェール大学の8校、全て私立。
・1975年ではテニュア教授が45%いたが、今は25%以下に減っており、非常勤講師などが4倍に増えている。テニュアの募集には非常に大人数が集まるので、エリート大学出身者以外が足切りされる事が多い。結果、テニュア職員間のネットワークはエリート大出身者になって行き、さらに有利になる。
・優秀な人材を確保する為に、「配偶者雇用」を実施している大学もある。
・アメリカの大学の授業料はどんどん上がってきている。アイビーリーグげは平均年5万$=500万円。カナダの大学の方が安く、内容も悪くないので、アメリカの高校生はカナダの大学に行くことも。
・国や州からの公的資金が減らせれてきているのも、授業料高騰の原因の一つ。LGBT対応など新しく付加しなくてばいけないサービスも増えている。
・エリート私立大学は、巨額の寄付金を集めるので裕福。
それらは気前よく奨学金を出す。低所得家庭出身の学生の大学資金を支援する事で、裕福な学生ばかりを優先入学させて階級の再生産を促しているという悪いイメージを払拭しようとしている。しかし、低所得という定義は世間離れしており、アメリカの平均世帯所得が5万$なのに、6万5千$を基準としている。授業料だけでなく大学生活にかかる費用は全額カバーしてくれる。返済不要。
・通常の大学は破産しはじめる所もでてきている。又、一般学生は2/3が奨学金ローンを抱えて、ローン地獄に。
・名門大学では、学業の成績が良くないといけない。しかし、それだけとは限らない。学力だけでなく、学生の個性や人物の全体像を評価するホリスティック入試をおkなっている。ホリスティック入試では、貧困層出身者(親が大卒でなく、初めて大学に進学せうる世代=First Generation)、運動や芸能に優れた才能、リーダーシップ力、ポランティア活動など、ユニークな人生経験、親や近い親戚にその大学の卒業生がいる事などが有利とされる。それに加えて、「アフォーマティブ・アクション」と呼ばれる積極的差別是正措置でマイノリティ人種入学を優先する所もある。
・親や近い親戚にその大学の卒業生がいるのは「レガシー」と呼ばれて、合格率は一般生に比べてハーバードでは5倍になる。さらに、お金持ちの子供は、運動、芸能、ボランティア、色々な経験などをするゆとりがあり、有利になる。
・アメリカの政財界のリーダーの半分はわずか12校の名門大学卒で占められている。
そして、過去、名門校はWASP(アングロサクソン系プロテスタント白人)と呼ばれる支配階級の白人が占めていた。ところがユダヤ系やカトリックの生徒が高成績で入ってくる様になり、それらに乗っ取られないようにホリスティック入試を考え出したという経緯がある。
・ホリスティック入試で実際に一番威力があるのがスポーツ選手、次がマイノリティ人種、レガシーと早期決断応募者、ファーストジェネレーションの学生の順で、貧困層出身というのは殆ど恩恵がない。
ちなみに、アジア系は勉強が出来るのでマイノリティではなく白人扱いになっている。
・”アメリカの大学は入学は簡単だが、卒業が難しい”と言われるが、それは勉強が難しいからという事ではない。エリート校にマイノリティ枠で入って学力が劣る生徒たちも、しっかり奨学金をもらって生活して白人とかわらない90%以上の卒業率になっている。一方、一般大学の学生は、途中で経済的に続けられなくなり卒業できないというのが実態。
・アメリカの大学では、ABCDFの成績評価で、C以上が合格だが。殆どはAしかとらない。これは「成績のインフレ」。Bとか付けると生徒から先生が問い詰められる。そいうクレームが先生の大学からの評価にも影響するという事で、インフレさせて丸く収める風潮とのこと。4年生大学で、42%の成績がAになる。
学生は「お客様」扱いになってきている。
ポイント抽出は以上
これらの中で、特に驚いたのは「入学は簡単だが卒業は難しい」というのが経済的理由だったという話。私は、てっきり厳しい勉学を習得しないと卒業できないという制度なのかなと誤解していました。 ナーンダという印象。
アメリカの大学は、商売=ビジネス の色が濃いのだとこの本で良く分かりました。
現在の日本の大学はどうなのか? 公費支給を削って削って、期限付き雇用がどんどん増えてきている日本の大学も、アメリカ化まっしぐらに進んでいるのではという気がしました。
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