著者は認知心理学等を研究した大学名誉教授の方。
いきなり骨子となる部分を抜き書きさせていただきます。
「科学が進歩したので、なんでも正しく理解できる様になったかと言えば、そうでもない。職業的科学者が爆発的に増加したので、科学論文も爆発的に増加した。研究成果を宣伝しないと研究費が取れなくなる。それで、マスコミに売り込むためには手段を選ばない研究者もいる。まじめな研究者の科学論文でさえ、さまざまなバイアスから自由ではない。
研究論文は星の数ほどある。実証科学では、ある特定の仮設を支持する研究が100%ということはあり得ない。支持する研究はあるが、支持しない研究もある。ウエブや書物の科学記事の大部分は、自分の意見に添う研究のみを取り上げ、他を無視するという方法で書かれている。つまりは、つまみ食い的評論で、自分の意見を科学的に装っているだけである。無料で読める記事はそれなりの内容である。結局、記事の大部分は疑似科学にすぎない。
幸い、良心的な研究者たちが数多くの研究論文を評価し、まとめ上げたレビュー論文がある。その中でもっとも信ぴょう性が高いのは、ランダム化比較試験をメタ分析という統計技法でまとめたレビュー論文(システマティック・レビュー)である。特定の仮説がどの程度支持できるかに関して多くの論文を効果量という数字でまとめ上げている。それで、つまみ食い的でない、比較的公正な結論が得られる。どんなトピックでも、メタ分析の論文をいくつか読めば、科学の最先端の結論が簡単に手に入る。逆に言えば、メタ分析の論文を読まない限り、つまみ食い的評論に左右され、結論を誤ってしまう。
最近は、多くの重要なメタ分析の論文はオープンアクセスになっていて、PubMed経由で無料で読める。したがって、専門外の分野でも、検索キーワードを入れ、システマティック・レビューというフィルターを付けると、多くの論文が出てくる。そこで、関連する論文をいくつか読めば、ただちに最先端の知識に辿り着く。せっかく良い時代になったのに、読む人は少ないのだろうか。少なくともベストセラーの著者や大衆的なウエブ記事を書く人は読んでいないようだ。」
つまり、実験のやり方やサンプルに偏りや意図的改ざんのある論文も多い。人間がからむ事項の場合は、薬の世界で良くやられる2重盲検査のようなやり方をしないと正しい科学的結果は得られないと考えられます。
これらの事実を前提として、各論文の信ぴょう性を評価しながら網羅的に全体をレビューするシステマティック・レビュー(研究を網羅的に調査し,同質の研究をまとめ,バイアスを評価しながら分析・統合を行う。日本語では系統的総覧?)でないと科学的な証拠性の高い結論は分からないという事を言われています。
その後は、色々なシステマティック・レビュー結果を述べてくれています。
・BMIと死亡率
アメリカでは20・30才代でBMI=20前後、40才代で22、50才代で24、70才代で26ぐらいが最も死亡率が低い。日本を含むアジアでは、3位減らした数値で考えた方が良い。つまり、40代台で19ぐらい、50代で21、70才代で23ぐらい。
・塩と血圧
塩分摂取を減らすと血圧も下がる。
・コーヒー摂取量と死亡率は負相関
1日3杯飲む人は死亡率が21%低い。
・睡眠と死亡率
最も低いのは7時間睡眠。 その上でも下でも死亡率は増える。
・プロの投資家と結果
プロ投資家の結果は市場平均と同じ
それ以外に、ダイエットについて、就職面接について、優秀なビジネスマンについてなどなど沢山の項目が出ています。
この本を読んで、なるほどシステマティック・レビューというのは客観性が上がりそうだと思いました。
商業的なダマシを排除して、大まかな傾向はこれで分かりますね。
ただ、こと人間に関する事はこのレビュー結果も鵜呑みにはできないなとも感じました。
色々なパラメータの交互作用がきっとあると思いますので。
生活スタイルや活動の癖、勿論遺伝なども、きっと効いてくるでしょう。
こと健康に関する事は、自分で試して自分で見つけていくという事が必要そうです。
例えばこの本に抗酸化物質のコーホート分析結果で、ビタミンCサプリ多量摂取が高齢で白内障に悪影響を出たので飲むのを筆者は止めたと書かれています。
でも、元情報をあたって見ると加齢黄斑には逆に好影響という報告もあり、要はそこそこの量にしておけば良いのではという事になる気が私はします。
システマティック・レビューを紹介した本ではありますが、この本にも著者のバイアスが当然かかっているのですからね。
0 件のコメント:
コメントを投稿