うかつな事に、この本の存在を知りませんでした。
読んで、竹下さんがどういう苦悩と思いを持って
臨んでいたのかが良く分かりました。
とかくアイドル追っかけ的で評論家気取りのファン
が多い女子バレーですが、この本を読んで表面から
は見えないアスリートの自分自身やチーム自体の
本当の闘いを少し理解できる様になった気がします。
この本を読んだ上で、世界最終予選やロンドンでの
闘いを見ていたら、違った見方になったし、感動が
何倍にも増大していたのではと思います。
勿論、ロンドンを目指していた時の火の鳥チームの
内情や選手から見たポイントなども知る事ができます。
セッターとしてのトスの質についての考え方も知る
事ができました。
現在の新生火の鳥チームの抱えているだろう課題や
木村キャプテンの悩みも想像できる様になりました。
バレーファンの方にお勧めの一冊です。
トスに関する技術的な部分だけ、少し引用させていただきます。
以下、本書から(2011年時点のインタビューです)
出来ない事をそのままにしておかないという考えは、
竹下をアスリートとして高い領域まで引き上げた。竹下
のトスは、スピードがありながら、打ち幅を広げるという
二律背反する命題をクリアした。山本(愛選手)が説明する。
「たとえば、自分の踏み切りのタイミングが少しずれたと
思っても、打つ時はちゃんと合っているんです。テンさんの
トスは打つポイントが幾つも用意されている。しかも、ボール
が死んでいるから打ちやすい」
死んでいるとは、ボールが空中に静止して見える事だと山本は
言う。
技の少ない選手ほどピンポイントのトスを要求したがるもの。
しかし竹下は、要求に応える振りをして、その都度トスの質
を変えている。一日の初めのウォーミングアップ時からアタック
陣の動きを観察し、その日その選手に合ったトスを繰り出して
いる。
「人間だから日によって調子が変わる。でも、ピンポイントの
トスを要求したがる選手ほど自分の変化に気がついていないん
です。だから私の方で本人に気づかれないように微調整する。
私の理想は、アタッカーに打つポイントをいっぱい作ってあげ
ること。トスの上がり際でも、到達点でも、またボールが落ちる
時でも、どの地点でも打ちやすいトスを上げる。アタッカーの
選択肢を広げてあげたいんです。」
セッターの多くは、打つベストポイントが一点しかないトス
を上げるという。その為セッターとアタッカーの息が合わないと、
ジャストミートしたスパイクは打てないし、相手のブロックにも
捕まり易い。
その一方、竹下が打つポイントを多く用意したところで、それ
を活用できるサイドアタッカーが少ないという現実もある。
竹下という宝の持ち腐れと言ってもいい。
「でも、沙織は打てます。相手のブロック隊形を空中で瞬間に
見極め、クロスにもストレートにも打てるし、インナー、ターン
と使い分けできる。他の選手にもラインを狙うストレートを打って
欲しいとトスを伸ばすと、アンテナに引っ掛けられちゃうから、今
はトスを短くせざるを得なくなる」
又、選手はどこかしら故障を抱えている事が多く、スパイク時に
痛みを感じさせないようなトスを上げるというのも、竹下ならでは
の発想。思いやりのトスだ。
「選手は多少身体に問題を抱えていても、コートに入りたいと思う
のが性。だから肩に負担がかからないトスとか、腰に痛みが出ない
体勢で打てるようなトスとか、あるいは足を痛めていたら強く踏み
切らなくていいように、ちょっとゆったり目のトスにしてあげるとか、
やっぱりアタッカーが今どういう状態でいるのか気を使いますよ。
本人達はまったく気が付いていないと思いますけど」
抜書き は以上ですが、外からでは分からない非常に微妙な点ま
でコントロールしたトス技術である事が良く分かります。
この本には、同様な具体的な内容も沢山書かれています。
そういう点に興味を持たれる方にもお薦めです。
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