2014年5月12日月曜日

【本】新しい国へ  安倍晋三  文芸春秋

この本は、第1回目に首相になった時に出した「美しい国 日本」を、今回 改定したもの。基本的に安倍首相の考え方をPRした本です。


読んでみて、日頃 ニュースで接する政府の一連の動きは、ここに書かれてある事をそのままにやっているという事に素朴な驚きがありました。成る程。そういう考え方かと合点の行くことも多いです。この本と日米安全保障条約、日本国憲法、自民党による改憲案の4つを併せて読むのが良さそうです。


気になった内容のポイントと、⇒以下で私なりの印象を記してみます。


前文

・私は「闘う政治家」でありたい。(私の考える)日本のためになる事をしていく。


第1章 安倍首相の原点

・祖父(岸信介)の行った日米安保改定は、日本にとって死活的な条約。当時反対論が国民運動やマスコミ含めて大規模にあったが、それらは間違った胡散臭いもの。祖父は世間のごうごうたる非難を向こうに回して、その泰然たる態度には、身内ながら誇らしく思った。

・太平洋戦争も、軍部・指導者の責任はあるが、当時の新聞にも「断固戦うべし」と活字が躍っていて、民意の多くは軍部を支持していたと思う。

・日本が独立を取り戻す為の目標が憲法改定。連合軍にしばられた手足(武力の行使)を解き放つ「自主憲法の制定」が自民党の結党の精神のひとつ。 自民党で新宣言を検討した時に、党内で改憲をいう意見は少なかったが、私(安倍首相)が声を大にして新宣言の一つに入れこんだ。

・父の安倍外相の秘書官をして諸外国との交渉の場にも接したが、外交は信頼関係であるという事を強く思った。

・政治家は実現したいと思う政策と実行力が全て。
 自分なりに熟慮した結果、自分が間違っていないという信念を抱いたら、断固として前進すべし、たじろがず、批判を覚悟して臨む。


⇒戦争当時の新聞の見出しを持ち出して、国民からの支持があったとしているのは、あまりに違和感があります。そういう表現や行動をせざるを得ないような状況に追い込まれているという事や、マスコミは民意とは全く異なる次元の話である事を無視していて、いわゆる権力者側の論理に見えます。

又、選挙で選ばれたのだから、白紙委任されたように自分の考えを押し通す。他人の意見を聞かない。国民から何を言われても気にしない。という態度は、国民主権や議会性民主主義という根本を全く無視しているのではないでしょうか。実際に、自分と同じ考えの人間を任命しての検討会開催と答申を行わせて、民主的に表面を取り繕って自分の意のままに進めるという悪しき手法ばかりが見える気がします。


第2章 自立する国家

・国家安全保障の視点で物事を考える事を基本とする。

・例えば「海外にいる日本人に手を掛けると、日本国家は黙っていない」ことを見せる事が重要。アメリカも同じ考え方。

・ナチなど独裁国家では自由と民主主義が否定され、報道の自由も認められていない。存在するのは、一部の権力者が支配している閉ざされた政府だ。問題なのはその統治の形である。


⇒十分 自覚しておられる様ですが、実際には安倍首相の進めようとしている事は、外交ではなく武力にたよる抑止と言論無視による国民から遊離した政府に見えます。


・靖国参拝に関して、政府としては1985年以降 参拝は違憲ではないという見解。

・参拝をしていても、小泉元首相や自分が 核武装をしようとしているか? 人権抑圧しているか? 自由を制限したか? していない。

・A級戦犯うんぬんも、国内法では犯罪者ではない。

・何人も国家の為に死んだ人に対して、敬意を払う権利と義務がある。


⇒国民を戦争に巻き込んでいった事に対する反省や得た知恵が全く見えません。


第3章 ナショナリズムとはなにか

・「君が世」を私は好きだ。「君」は日本国の象徴としての天皇。日本は天皇をタテ糸に歴史という長いタペストリーが織られてきた。

・国へのナショナリズム、母国愛は素晴らしいものだ。日本人のアイデンティティである。

・「地球市民」という言葉を言う人もいるが、「地球市民」ではどう人なのか、アイデンティティが分からないじゃないか。郷土愛がまず重要で、その先に母国愛がある。国は市民の安全・財産・人権を担保する基礎単位。


⇒ふるさと愛と「国家」を連動させる事が強引に感じます。江戸時代の日本では、各藩が今でいう国にあたっていた様に思います。日本というもう一つ大きなくくりがある現在、県単位でのナショナリズム意識が強く必要になっている訳でもありません。現在の国という単位も、地球というくくりでの意識が出来れば、相対的に意味が減じるものと思います。


・戦後の日本社会が基本的に安定性を失わなかったのは、短期で変わる行政府の長とは違う「天皇」という微動だにしない存在があって初めて可能になったと思う。

・日本政府は終戦後 GHQに天皇が統治権を総攬行使するという明治憲法の基本を引き継ごうと提案したが、GHQはそれを許さなかった。

・特攻隊の人たちは、「愛しい人の為に」だけで散ったのではなく、日本という国が悠久に長く続く事を願ったのである。国家の為に進んで身を投じた人達だ。


⇒安倍首相の基本は国民は国の為の奉仕者の様な形にしたいように思えます。自民党の改憲案も国民の為の憲法ではなく、国の為の憲法となっています。

具体的には憲法を守るべき者も、現在の「天皇又は摂政及び国務大臣、国会議員、裁判官その他の公務員は、この憲法を尊重し擁護する義務を負ふ。」から「全て国民は、憲法を尊重しなければならない。国会議員、国務大臣、裁判官その他の公務員は、この憲法を擁護する義務を負う」という様に国民が守るという様に大きく変えようとしています。

特攻隊に関しても、本心から進んでではなく、そう考えないと出来ない状況に追い込まれたという視点が欠けていると思います。



第4章 日米同盟

・米国はパクス・アメリカーナ(アメリカによる平和)を信じ、主張している。平和を守るには強大な絶対権力者が必要で、アメリカがそれになる。

・レーガン時代にSDI(スターウォーズ)構想があった。ソ連はそれに対抗できずに崩壊した。

・憲法第9条は、「日本国民の安全と生存は、諸外国を信用してすべてを委ねよ」と言っている。

・ドイツは「国防の義務は民主主義の正統である」と言う。一方、日本は安全保障について考えることは、すなわち軍国主義であるととらえられたのでは、日本人の行動や心理は屈折して狭くなっている。

・日本は米国に守ってもらわなければならない。守るべきなのは国家の主権であり、国家の誇りである。

・米国とは信頼関係を高めたい。もっと仲良くして一緒に行動できる様にしたい。(そうしたら日本は見捨てられないはず。)又、対中国へのパワーバランスになる(トラの威を借る)。それが平和の道。アジアの安定につながり、結果 銃声は一つ起きないだろう。


⇒日米同盟が重要という事を言いたいし、米国は強大だと言いたいのだろうと思う。

SDI自体は米国内でも崩壊していた計画であり、認識が違っていると思います。
日本は絶対権力者の庇護下になるのが最重要というのならば、本当は米国の州にするクリミアの様に合併したいのでは?  
日米安保条約は、「各行動は各国の憲法の下で判断する事」と明記されている。安倍首相が憲法を変えたいのは、この日米安保条約で日本が出来る事を増やしたいという事に尽きるのではないかと推測します。安保条約も戦後レジームの非常に大きな点だが、それを変える事は全く考えていないようです。

一番驚くのは、守るべきものは国民ではなく、国の主権だという考え。そこに国民の視点はありません。
安倍首相の目指しているのは。昔の冷戦のパワーバランス。つまり、軍拡競争の世界に戻る事。その愚に戻る事を止めてきたのが平和憲法と思います。



第5章 日本とアジア、中国

・日中は政経分離でいきたい。


⇒経済的な欲の為に、派兵や植民地化などをしてきたのが人類の歴史。政治は好き勝手にやるから、商売は独立してやって という分離は不可能だと思います。



第6章 少子国家の未来

・尊敬するチャーチル元首相は、貧しい労働者が増えると、怨嗟の声が日増しに大きくなり、国家に向かう。社会が不安定化してしまうので、社会保証に力をいれた。

・少子化対策は、家族を持つ事は素晴らしいと思う気持ちをはぐぐむ。家族の価値の大切さを訴える。

・労働生産力の減少は、女性・高齢者の生産人員化でカバーする。

・健康寿命と平均寿命の差を近づける事で、費用を削減する。


⇒結婚したい、子供を育てたいという気持ちが重要というのは分かりますが、なぜ結婚しないの、か、晩婚化しているのか、子供を作りたくないのか、に向き合う必要あり。ベキ論で解決する話ではないと思います。



第7章 教育の再生

・国に対して誇りを持つようにしないといけない。

・教育の目的は 志ある国民を育て、品格ある国家を作る事。

・学力の低下が著しい。向上心が無くなっている。 強制的な改善措置が必要。ダメな教師には辞めていただく。

・モラルの回復:自分が他人の役に立てる存在だったと発見させるためにボランティアの強制をしたい。大学も秋入学として、その半年をボランティアさせる。

・子供達に、典型的な家族のモデルを示す。子供を持つ良さ、家族の素晴らしさを教える。

・格差の再生産は、教育バウチャーで対応する。


⇒安倍首相の考えるのは、エリート教育&画一化教育に思えます。教育の目的は、社会に役立つ人間形成だと私は思います。現代はスマホなど含めて、個人が個人の殻に入っている時代だと思いますが、そこを、社会、集団という観点を持てるようにすることは重要と思う。



⇒全体を通して感じる事は、米国から見て価値の高い=使いやすい国を作ろうとしているのだろうという事。それしか日本には生きる道はないと信じている。それを自立・母国愛という一面で正当化しようとしているのではないでしょうか。

日本が武力を平然と使える様になると、折角 世界でも例を見ない 軍産複合体の無い日本に、それが生まれます。
軍産複合体は一度出来てしまうと、それの存在意義や成長を追求する事になります。それが経済成長になり国民の為という大義を掲げて。戦争・紛争を求める様に必ず成ってしまいます。

どうしても改憲をしたいと考えるならば、もしかしたら故意に有事を演出して。。という歴史によくあるシーンも連想してしまいます。

冷静さを失わない様にして、行かなければと思いました。

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